
認知症とせん妄は、高齢者によく見られる症状として混同されがちですが、実際には全く異なる病態です。適切なケアを提供するためには、この2つの違いを正しく理解することが重要です。まず、発症の仕方に大きな違いがあります。認知症は数ヶ月から数年かけてゆっくりと進行し、記憶力の低下や判断力の衰えが徐々に現れます。一方、せん妄は数時間から数日という短期間で急激に発症し、意識レベルの変化や混乱状態が突然現れるのが特徴です。症状の現れ方も異なります。認知症では記憶障害が中心となり、新しいことを覚えられない、時間や場所が分からなくなる、言葉が出てこないなどの症状が持続的に見られます。せん妄では意識がぼんやりしたり、逆に異常に興奮したり、幻覚や妄想が現れたりします。また、せん妄の症状は一日の中でも変動し、夕方から夜にかけて悪化することが多いです。
原因についても大きく異なります。認知症はアルツハイマー病や脳血管性認知症など、脳の器質的な変化が原因となります。せん妄は感染症、脱水、薬の副作用、手術後の状態、環境の変化などが引き金となって起こります。治療や対応方法も違います。認知症は根本的な治療法がないため、進行を遅らせる薬物療法や生活環境の調整が中心となります。せん妄は原因となっている病気や要因を取り除くことで改善が期待でき、適切な治療により完全に回復することも可能です。
介護現場では、普段と様子が違う要介護者を見かけたら、まず医療職に相談することが大切です。特に急激な変化が見られた場合は、せん妄の可能性を考慮して迅速に対応する必要があります。環境を整え、安心できる声かけを行いながら、専門的な診断と治療を受けられるよう支援することが重要です。正しい理解に基づいた適切な対応により、要介護者の状態改善につなげることができるでしょう。